私は公文書館で「一次資料」と呼ばれる古い文献を見るのが大好きなのだが、その喜びを知った最初の場所は、おそらく広島県立文書館だ。2005年、原爆記念式典に出かけた私は、移民最多出県の広島ならニューカレドニア移民についての資料があるかもしれないと思って、なんの期待もせずにふらっと文書館に寄った。たまたまその日受付におられたAさん(当時の副館長)に、「ニューカレドニア移民の研究をしているのですが、何か資料はありますか?」と漠然と尋ねると、A4一枚のリストになってすぐに返答が目の前に現れた。その中に平賀家文書という宝の山があり、それを初めて実際に手にとりながら、その時代に繋がる、肉筆で綴られた「モノ」としての存在に感激した。たとえば、2003年に撮影した広島出身の二世の父親の名前がそこにあり、移民たちの歴史が現在に続いていることが実感できた。その後、2007年には文書館の企画展示室で展覧会もさせていただき、Aさんにはほんとうにお世話になった。
そして先日、5年ぶりに文書館を尋ね、平賀家文書をあらためて拝見した。平賀家文書は移民代理人を務めた土肥氏と、その後継者である平賀氏が残した記録で、移民たちが旅立つまでに行った手続きや渡航準備の詳細な内容がわかる。個人の経験をできるだけ細部にわたって追うことで全体像を組み立てていく私にとって、移民ひとりひとりの証明書類が残っているこの資料はとても魅力的だ。じ〜っと眺めていると、移民の家族、出身地、仲介役の平賀氏の人柄さえも感じることができるのだ。その昔Aさんが私におっしゃった「史料が残されたのには理由がある」という言葉が蘇る。初心にかえった暖かい気持ちで、居心地のいい文書館から外に出ると、広島はいつもどおりとても暑かった。その足で平和資料館に向かう。地下の企画展示室では「基町」をテーマにしたいい展示が開催中だ。
翌日は、大和プレスビューイングルームに、グラフィックデザイナー中島英樹さんの展覧会に友人たちと行った。広島での贅沢な二本立て、「歴史」と「アート」、どちらも私のライフワークである。
文書館だより(2008年、No.31号)に寄稿しているので、興味のある方はご覧ください。

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ひさしぶりの原爆ドーム